外国大使館へと転用された大名屋敷群
東京には140以上の国の大使館が置かれていますが、なかでも密度が高いエリアが麻布一帯で、じつに40以上もの大使館が集中しています。
いったいなぜ、麻布に大使館が集中しているのでしょうか。
江戸時代、麻布一帯には広大な敷地を持つ大名屋敷が軒を連ねていました。明治維新後、これらの大名屋敷は明治政府によって接収されましたが、明治政府はこうして生まれた広大な空き地を外国大使館へと転用したのでした。
たとえば江戸時代、ドイツ大使館は平野兵庫守の下屋敷、フランス大使館は戸沢上総守・青木甲斐守の下屋敷、韓国大使館は松平陸奥守の下屋敷、ロシア大使館は秋田安房守の中屋敷でした。
麻布に大使館が集中した理由
麻布には、すでに幕末から外国公館が置かれていました。その先駆けとなったのは、安政6年(1859)に善福寺に設けられたアメリカ公館です。なお、現在のアメリカ大使館は赤坂・霊南口の入り口に位置しています。江戸時代は山口筑前守の上屋敷と定火消役・石川又四郎の屋敷でした。
幕末、江戸幕府は開港するにあたって横浜港からほど近い麻布や品川、六本木などに外国公館を設置して集住させました。幕府にとって、江戸の街を外国人が勝手気ままに歩き回るのは大変都合が悪く、あえて公館をまとめて配することで動向を見張ろうとしたのです。
明治時代に入ってもそれは変わらず、明治政府もやはり、警備の観点から大使館を特定の地域に集中させました。とくに麻布には広大な大名屋敷があったことから都合がよかったのです。
一方、諸外国の立場からしても、麻布は魅力のある地域でした。山の手の台地上に形成された麻布は日当たりがよく、日本特有の湿気に苦しめられることがなかったためです。見晴らしもよく、住環境としても最適であったため、諸外国も積極的に麻布を大使館の設置場所として選んだといわれています。
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