歴史のある京都の町は、「山紫水明」と表現されることがあります。山紫水明とは、「山は日の光に映えて紫色にかすんで見え、川の水は澄み切っていること。自然景観の美しさを表わす」という意味合いを持つ表現です。
たしかに京都の町を歩くと、東山や北山、西山などの山々の美を感じられるでしょう。しかし、そこまで川が多いと感じたことがある方は少ないのではないでしょうか。
じつは、かつて京都市中にはじつに多くの川が流れていました。実際、平安時代には平安京域に富小路川、東洞院川、子代川(烏丸川)、室町川、町川、西洞院川、堀川、大宮川、西大宮川、西堀川(紙屋川)、佐比川、西室町川という12本の川、そして京域の外に鴨川、中川(今出川)、西京極川が流れていたのです。
平安京域を流れていた川は、平安京の造営時、京域を南北に走る大路や小路の中央に人工的に掘られたものです。そのうち、大内裏を両側から挟むように造られた東堀川と西堀川は、都に資材を運搬する水路として利用されました。
京都市中から失われた川のせせらぎ
その後、平安京域を流れていた川は、ゴミや屎尿で下流部から徐々に埋まっていきました。
こうした状況を改善するため、流れなくなった場所の上流部で横の川と合流させる工事がおこなわれていき、徐々に川の数は減少していきます。
さらに室町時代の応仁の乱で多くの川が涸れ果てた結果、江戸時代の平安京域を流れる川は東から今出川、西洞院川、堀川、西堀川(紙屋川)のみとなったのでした。
しかしこれらの川も、時代の流れによって暗渠化(蓋などで覆い、地上から見えなくすること)されていきます。
大正時代に市電が開通すると、それに伴って今出川や西洞院川が、その姿を消しました。
そして昭和38年(1963】に小川が埋め立てられたことにより、堀川もまた、涸れ川となりました。
なお、堀川に再び清流を取り戻したという住民の声が高まったことを受け、平成21年(2009)3月、賀茂川の左岸を流れる第二疎水分線を水源として約50年ぶりに堀川の清流がよみがえっています。
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