美しい人間の娘にひと目ぼれしたゼウス
神々の王であるゼウスは、じつに多くの人間との間にも関係を持ちました。今回は、そのうちの一人・エウロペを紹介します。
ある日、ゼウスはオリュンポス山の頂上にある宮殿から地上を見渡していました。
「さて、今日も私の世界に異常はないかな」
すると、好色のゼウスはフェニキアの海辺で遊ぶ美しい少女を目ざとくも見つけてしまいます。
「おぉ、なんと美しい人間だ……!」
彼女は、フェニキアの王アゲノルの娘で、名をエウロペといいました。
「これは何としてでも私のモノにしたい」
そう決心したゼウスはエウロペに近づくため、三日月形のツノを持つ白い牡牛に姿に変身。彼女のもとへ移動するや、そばでうずくまり、上目遣いで彼女を見つめました。
エウロペは、雪のように純白で柔和な優しい瞳をしている牡牛に思わず目を奪われてしまいます。
「なんと美しいウシなのでしょう」
そしてそっとその背をなでてみました。
「まぁ、大人しいのね!いい子だこと」
温和な牡牛にすっかり気を許したエウロペは、しまいには牡牛の背にまたがりました。
するとゼウスはこのときを待っていたとばかりに突然立ち上がり、そのまま一目散に海へと泳ぎ出してしまうのでした。
「きゃぁー!」
岸はどんどん遠ざかるばかり。ようやくエウロペは自分が置かれている状況を理解しましたが、なにせ周囲は大海原。牡牛から振り落とされないように懸命にしがみつくことしかできません。
こうしてゼウスは、エウロペをクレタ島へと連れて行きました。そしてゼウスは自らの正体を明かし、彼女と一つになったのでした。
ゼウスとエウロペの間には3人の息子が生まれます。ミノス、ラダマンテュス、サルペドンです。
そののち、ミノスはクレタ島の王として即位することになるのですが、それはまた別のお話。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『エウロペの掠奪』
ゼウスが牡牛の姿に身をやつしてエウロペをさらうエピソードは、中世以降、キリスト教の寓意画として解釈されるようになりました。つまり、キリスト(ゼウス)が人々の魂を天上の世界へと連れ去る行為を表わすとされたのです。
そのためこの場面は多くの画家によって描かれてきました。上記の絵画はティツィアーノがスペイン王フェリペ2世のために描いたものです。
よく見ると、エウロペの足元にはイルカに乗った愛を司る神エロスがいます。つまりこの絵画が「愛」に関するものであることを示唆しているわけです。なお、イルカはアフロディテ(ヴィーナス)を示す象徴的な動物でもあります。
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