神田上水の守護神として祀られた「水神社」を知っていますか?

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神社
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ひっそりとたたずむ水神社

 地下鉄東西線早稲田駅から北へ徒歩15分ほど歩くと、神田川が見えてきます。東京都三鷹市の井の頭池を水源とし、都の中央部を東西に流れて隅田川にそそぐ全長約25キロメートルの河川です。

 その神田川にかかる駒塚橋を渡ったすぐ先のところに、「すい神社」という神社があることをご存じでしょうか。胸突むなつき坂の途中に鎮座しています。

 なお胸突坂は、江戸時代、坂を上るときに胸に足がついてしまうほど急な坂であることから名づけられました。江戸市中にはこのような急な坂が多く、「胸突坂」と呼ばれた坂は都内にいくつも残ります。

写真ではそれほど急とは感じないが、実際に上ると意外と大変な胸突坂。

 この胸突坂の横に、水神社はひっそりとそびえ立っています。

 鳥居は比較的新しいものです。平成16年(2004)12月5日の大風で社殿横のイチョウの木が倒れて笠木が2つに折れてしまったため、平成17年(2005)9月に新設されました。なお、壊れた柱には「安政四年」と刻まれていたそうです。江戸時代以来の貴重なものであっただけに、倒壊が残念でなりません。

 階段を上ると、こじんまりとした境内が広がります。

境内全景

 こちらの小さなお社が本殿です。

 祭神は、速秋津彦命はやあきつひこのみこと速秋津姫命はやあきつひめのみこと応神おうじん天皇の3柱。速秋津彦命・速秋津姫命はイザナキとイザナミの神生みによって生まれた水戸(河口)の神、応神天皇は第15代に数えられる天皇で八幡神とも呼ばれます。

 それでは、いったいなぜこのような場所に水の神が祀られるようになったのでしょうか。その答えの鍵を握るのは、神田上水です。

水神社はなぜ建立された?

 現代の東京の礎となった江戸の歴史は、天正18年(1590)8月1日に徳川家康が入府したことにはじまります。

 しかし、海に面した低湿地と武蔵野台地に囲まれた江戸では良質な水を得るのが非常に困難でした。地下水は塩分が非常に多く含まれており、飲用には適していなかったためです。

 そこで家康は江戸入府と同時に家臣・大久保藤五郎忠行おおくぼとうごろうただゆきに上水の開削を命じます。このときに整備されたのは小石川の湧き水を水源とする小石川上水で、神田まで通水されました。また、千鳥ヶ淵ちどりがふち川の水をせき止めて千鳥ヶ淵を、武蔵野台地の湧き水を貯めて牛ヶ淵うしがふちを整備させましたが、それでも飲料水は不足しました。

 そこで寛永6年(1629)ごろに小石川上水が拡張され、井の頭池、善福寺池、妙正寺池を取水口とする神田上水が完成。関口に設けられた大洗堰おおあらいぜきで上水をせき止めて水位を上げ、小石川の水戸藩上屋敷を経由、水道橋付近で掛樋を通じて神田川を越え、神田・日本橋方面へと給水されたのです。

『江戸名所図会』に描かれた大洗堰

 水神社は、この上水の整備中に誕生しました。『江戸名所図会』によると、「水神が八幡宮社司の夢枕に立ち、『私は水神である。私をこの地に祀れば堰の守護神となり、村民をはじめ江戸の町はことごこく安泰である』と告げたため、社を建立して水神を祀った」といいます。

 なお当時、八幡宮は水神社と同じ敷地にありましたが、現在は存在しません。

『江戸名所図会』に描かれた水神社と神田川

 こうして建立された水神社は、とくに神田上水の恩恵にあずかった神田・日本橋の人々の崇敬を集めたと伝わります。また、当時はここから富士山をのぞむことができたといい、清らかな神田上水の流れ、椿山の自然と相まって行楽地としても人気を集めました。

 現在はひっそりとたたずみ、人気も少ないですが、じつは江戸時代以来、連綿と信仰を集めてきた由緒正しき神社なのです。

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