司馬遷が書いた『史記』ってどんな本?全容をわかりやすく解説!

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『史記』とは?

 前91年頃、全130巻からなる『史記』は完成しました。伝説時代の黄帝から前漢の武帝まで、およそ2000年に及ぶ中国の歴史が包括された中国最初の通史です。
 
 著者は司馬遷。司馬は姓、遷は名です。もともとは司馬遷の父で、天文・暦法を司る太史令の職にあった司馬談が国史をまとめあげようとしていたのですが、前110年に志半ばにして亡くなってしまします。そのいまわの際、司馬遷に対して自分が果たせなかった国の歴史をまとめあげるという夢を実現してほしいと遺言したのです。

 司馬遷は父の遺志を継ぐことを決意。前108年に太子令の職を継承すると、それから数年ののち『史記』の叙述に取り掛かりました。しかし『史記』執筆中の前98年、司馬遷は匈奴という異民族に投降した友人・李陵の弁護をしたことで宮刑に処せられてしまいます。
 
 宮刑とは、去勢して男性機能を不全にしてしまう刑罰のことです。ようは子孫を残せないようにしてしまうわけです。

 当時、男根を切除して生きながらえるのは最大の恥辱と考えられていましたが、司馬遷は『史記』を完成させたい一心で宮刑を受け、宦官となる道を選びました。

「これは私の罪なのか」。司馬遷は失意に陥りますが、周の文王や孔子、屈原、韓非子といった偉大な人々はみな苦境に置かれたことで優れた著作を世に送り出したと発奮。屈辱をバネとして、偉大な史書を世に送り出したのでした。

『史記』の構成

『漢書』「司馬遷伝」によると、『史記』は『戦国策』『楚漢春秋』『春秋左氏伝』『国語』『世本』『荀子』『韓非子』などの史書を参考にしているといいます。

『史記』の構成は、「本紀(帝王及び王朝の記録12篇)」、「表(年表や月表、系図10篇)」、「書(音楽や暦、経済の変遷などの記録8篇)」、「世家(諸侯や功臣の伝記・記録30篇)」、「列伝(功績を残した人々の伝記70篇)」からなります。列伝の最終巻「太史公自序」は、司馬遷自身の歴史を記した自伝です。

『史記』の最大の特徴は、「紀伝体」という叙述形式を用いて編まれている点にあります。紀伝体とは、人物一人ひとりの事績をそれぞれまとめるというもの。それまでの史書は時系列に沿って出来事を記す「編年体」という形式をもって編纂されており、司馬遷が採用した手法は画期的なものでした。以降、『漢書』や『後漢書』、『三国志』といった中国の正史(その時代の権力者に正式に認められた史書)はすべて紀伝体に則って編まれるようになったのです。

 じつは司馬遷が著した『史記』は、当初、そのような名では呼ばれていませんでした。正式名称は『太史公書』。太史公とは、太史令に就いていた人の尊称のことです。つまり『史記』とは「歴史記録」という意味を持つ普通名詞にしか過ぎず、司馬遷自身、そのように読んでいた記録もありません。その後、時代を経るごとに『太史公記』、『太史記』と呼び名が変わっていき、後漢時代の3世紀以降、『史記』という名が定着するようになったといいます。

 また、『史記』は「未完」なのではないかともいわれています。

『漢書』「司馬遷伝」によると、「『史記』は10篇が欠けており、それがそのまま世に広まった。そして宣帝(在位:前74~前49年)のとき、司馬遷の娘の子・平通侯楊惲が『史記』を祖述し、世に広めた」のだといいます。

 実際、『史記』中の人物や地理の記述について食い違いが生じている箇所がありますが、これは司馬遷の意図なのではなく、後世に書き加えられたからこそ起きたもの、ともいわれています。

古代中国をもっと詳しく知るためのおすすめ書籍

『現代語訳 史記』司馬遷・著、大木康・翻訳(ちくま新書)

歴史書の大古典にして、生き生きとした人間の在り方を描く文学書でもある司馬遷の『史記』を、「キャリア」をテーマにして選び出し現代語訳。帝王、英雄から、戦略家、道化、暗殺者まで、権力への距離は異なっても、それぞれの個性を発揮し、自らの力で歴史に名を残した人物たちの魅力は、現代でも色あせることはない。適切なガイドと本物の感触を伝える訳文で『史記』の世界を案内する。

『戦争の中国古代史』佐藤信弥(講談社現代新書)

群雄割拠! 殷・周・春秋戦国時代に繰り広げられた古代中国の戦争を軸に、「中華帝国」誕生の前史を明らかにする画期的入門書。

『古代中国の24時間-秦漢時代の衣食住から性愛まで』柿沼陽平(中公新書)

始皇帝、項羽と劉邦、武帝ら英雄が活躍した中国の秦漢時代。今から二千年前の人々は毎日朝から晩まで、どんな日常生活を送っていたのだろう? 気鋭の中国史家が史料を読み込み、考古学も参照しながら、服装、食事から宴会、セックス、子育ての様子までその実像を丸裸に。口臭にうるさく、女性たちはイケメンに熱狂し、酒に溺れ、貪欲に性を愉しみ……驚きに満ちながら、現代の我々とも通じる古代人の姿を知れば、歴史がますます愉しくなる。

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