新年を迎えるための大切な行事・煤払い
現代では、12月31日の大晦日に大掃除を行ない、身辺を清らかにして新年を迎える家庭が一般的ですね。
しかし近世では、12月13日に煤払いと呼ばれる大掃除が行なわれました。
大掃除のことを煤払いと呼ぶのは、当時の住環境に理由があります。江戸時代は薪を使って煮炊きをしていたので、家中に煤がついてしまいました。そこで年末のこの日に煤を払い、家中をきれいにしたのです。
もともとは江戸城における年中行事のひとつとして行なわれていましたが、それにならい、江戸市中でも行なわれるようになりました。
ただし煤払いには、たんに家のなかをきれいにするだけではなく、1年間の罪や穢れを祓い清め、歳神を迎えるという目的がありました。
煤払いを煤掃き節供、煤掃き正月と呼ぶ地域もあり、清らかな身体で新年を迎えるための大切な行事であったことがわかります。
煤払い後に胴上げをする謎
家庭内では、まず神棚から清めたのち、家の中を掃除していきます。畳をあげ、ふすまや障子を取り払って外に出し、家中の煤を箒で払ってきれいにします。
このときに使用した箒には1年間の穢れや厄がつくと考えられました。そのため使用後は川に流したり、注連縄を張って保管し、小正月の火祭りで燃やしたりしました。
煤払いで家を清めたあとは、入浴して自身を清めます。そして神棚に灯明を点じ、神酒や小豆飯、団子などをお供えします。お供えものは、神に捧げたあと、お下がりとして家族全員でいただきます。
また、江戸時代の商家では、主人から奉公人まで一家総出で1日かけて煤払いをしたあと、使用人にごちそうなどを振舞い、祝宴を開いて1年の無事を感謝するのがならわしでした。
最後はお開きの行事として、主人を胴上げすることもあったといいます。
胴上げといえば、現在はお祝いのときなどに行なわれることが一般的ですが、江戸時代のころは胴上げをすることで主人が背負っていた家運の災厄が祓い落とされると考えられていたのです。
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