京都の町を歩いていると、他の土地ではお目にかかれない奇妙な地名や通り名に出会えます。なかでも面白い地名の代表格が、「天使突抜」です。今回は、天使突抜の由来に迫ります。
天使はエンジェルのこと?
五条通の北、西洞院通と油小路通の間を南北に走る東中筋通に沿って、天使突抜1丁目から4丁目までの町域が広がります。東中筋通も、かつては天使突抜通と呼ばれていました。
突抜とは、道の先端をさらに先へと延伸して生まれた道路名を指します。京都市中を見渡すと、天使突抜の他には「木下突抜」や「越後突抜」などの地名もあります。
さて、天使突抜という地名を見たときに、まず頭に思い浮かべるのは、羽が生え、愛らしい姿をした天使の姿ではないでしょうか。
しかし天使突抜の天使はそうではありません。松原通と西洞院通が交わる交差点の南西に鎮座する五條天神宮のことなのです。
五條天神宮は、平安時代、弘法大師空海が開基したと伝わる古社です。社伝によると、延暦13年(794)、平安遷都にあたって大和国宇陀郡から天神が勧請されました。
ここから当時は「天使社」と呼ばれていましたが、12世紀の後鳥羽天皇の時代に五條天神宮へと改称されたと伝わります。
現在の境内の周辺には東西南北に通りが走っていますが、当時、東中筋通はなく、五條天神宮の境内でした。
しかし豊臣秀吉の京都の都市改造により、五條天神宮を取り巻く環境は大きく変わることになるのです。
「天使突抜」の地名はすでに江戸時代からあった!
天正14年(1586)、平安京の大内裏跡地で聚楽第の建設に着手した秀吉は、それと同時に平安京以来の条坊制に基づいた区画に手を加えます。街区を半分に区切るように南北に走る道路を築き、それまでの正方形の街区を長方形へと改めたのです。
このとき、秀吉は五條天神宮の境内を貫通させるように一筋の道を通しました。すなわち、「天使社」を「突き抜いて拓いた」ことから、「天使突抜」という地名が誕生したわけです。
18世紀に刊行された『京大絵図』を見ると、五條天神宮の西に天使突抜という地名が記載されていることがわかります。すでに江戸時代には、天使突抜が地名として定着していたのです。
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