もともとは目には見えない存在
週刊少年ジャンプの漫画『鬼滅の刃』が空前の大ヒットとなっています。先日公開された『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』も11月30日時点の興行収入が275億円を突破。日本で上映された作品のなかで2位にランクインしました。
『鬼滅の刃』を簡単に説明すると、家族を鬼に殺され、妹も鬼と化してしまった主人公・竈門炭治郎が復讐を果たすため、また妹を人間に戻すために宿敵である鬼と、そのボスである鬼舞辻無惨を倒すという物語です。一種の復讐譚といえます。
この漫画で描かれるように、「鬼といえば悪者」というイメージを抱く方は多いでしょう。
そもそも鬼とはいったいどういう存在なのか。まずはそれについて見ていきたいと思います。
もともと鬼とは、古代中国で「死霊」「幽霊」を指す言葉として用いられていました。定説はありませんが、「隠」という音が転じて「オニ」となり、日本では「鬼」という漢字を宛てたとされます。一般に鬼といえば、2本の角を持ち、虎の皮のふんどしを締め、手には刺のついた鉄製の金棒を持ち、全身が赤色、青色をした姿で描かれますが、当初は隠の世界に住む目には見えない存在だったわけです。
その鬼が姿形を持つようになったのは、平安時代ごろのことだといわれます。仏教の伝来によって、地獄で罪人を責め立てる獄卒こそが鬼だと考えられるようになったのです。鎌倉時代中期の説話集『古今著聞集』にも、「そのかたち身は8、9尺(約3メートル)ばかりにて髪は夜叉のごとし、身の色赤黒く、眼まろくして猿の目のごとし、みな裸なり」と異様な鬼の姿が叙述されています。
鬼を豆で追い払う
そんな悪鬼を追い払う儀式が、追儺です。おにやらい、なやらいなどとも呼ばれます。ようは節分の豆まきですね。このとき、「鬼は外、福は内」と言いながら豆を投げて鬼を追い払い、福がくることを願います。
追儺は中国から伝来した儀式だと伝わります。中国ではすでに紀元前から行なわれていました。黄金の四ツ目の仮面をかぶった方相氏という呪師が矛と楯を持って目には見えない鬼(疫病神)を追い払うというものです。
日本には奈良時代に伝来したと考えられています。当初は中国同様、方相氏が鬼を追い払い、続いて群臣も矢を放って鬼を追い払うというものでしたが、方相氏が異形であったためにいつしか方相氏こそが鬼であると考えられるようになり、平安時代後期には群臣が矢を放って方相氏を追い払うという儀式へと変貌を遂げました。つまり、それまで目には見えなかった鬼の姿が方相氏という形で具現化されたということです。
また、当初追儺は疫病の流行時に行なわれていましたが、そのうち大晦日の行事として定着。やがて節分に行なわれるようになり、現在の豆まきへと姿を変えました。
なかにはいい鬼もいる?
これまで見てきたように、鬼は悪の象徴であり、追い払われるべき存在でした。
しかし日本では、じつにさまざまな鬼信仰が発展しました。修験道の開祖といわれる役行者が鬼を退治して前鬼・後鬼として従えたように、法力で調伏されるべき「悪神」としての性質があるいっぽうで、地域によっては春をもたらす「善神」として信仰するところもあるのです。
たとえば東京都新宿区に鎮座する稲荷鬼王神社では、鬼を悪を祓う春の神と捉え、節分のときには「福は内、鬼は内」と唱えます。
また、奥三河地方では毎年11月から3月上旬にかけて花祭が行なわれ、そのクライマックスに鬼が登場。五穀豊穣や無病息災をもたらしてくれるとされます。
このような善悪両面性を持つ鬼は、日本独特のものです。「和をもって尊しとなす」日本人らしい習性といえるかもしれません。
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